【寄稿記事】Modanisa 中東におけるモデストファッションの確立

こんな人に読んで欲しい

  • ファッションに興味がある
  • 中東地域の女性のリアルに迫りたい

伝統的なムスリムファッション

 中東をはじめとするイスラーム地域の女性といえば頭や体に大きめの布を纏い肌を隠した服装に身を包んでいる姿が思い浮かぶ。Tシャツやジーンズなど西欧風の服装が浸透している我々にとってこのような服装はあまり馴染みがないが、イスラーム地域では古くからの女性たちの伝統となっている。イスラーム教の経典「コーラン」では女性の服装について「美しい部分を隠せ」(24章31節)、「長衣ですっぽり体をおおうように」(33章59節)と記されており、ムスリム女性の肌を隠す慣習はこの規程に基づいている。

Anna Krivitskaya / Shutterstock.com

同じイスラーム教徒でも地域により服装のスタイルやルールには違いが見られる。例えばサウジアラビアでは目以外の全てを黒い布で覆っている女性が多いのに対してトルコやレバノンでは髪の毛のみをヒジャーブと呼ばれるスカーフのようなもので覆う女性が多い。またイランでは女性は髪の毛を隠すことが法律により義務付けられている。これらの服装の違いは信仰の度合いや考え方、文化の違いによるものである。

 しかし共通して、伝統的なムスリムファッションでは一般的に自己表現やお洒落よりも信仰が重視されてきた。信仰による規制が多いが故に選択肢が限られておりファッションビジネスではなかなか取り扱われなかった。世界中のアパレルブランドが西欧ファッションを中心に競合する中、ムスリム女性はファッション業界から取り残されていた。彼女たちは皆同じような布に身を纏い同じような格好で出かけた。彼女たちは個性の表現を抑えられていた。

モデストファッションの確立

 そんな中、世界で16億人もの人口にのぼるムスリムをターゲットにアパレルブランドがムスリムファッションへ相次いで参入を進めており、「モデストファッション」と呼ばれるカテゴリが確立しつつある。モデストファッションとはイスラーム教徒の服装を一般的に捉えた、過度な肌の露出や体型のラインを見せることを避ける保守的なファッションのことである。これは世界中のムスリム女性のみならず、控えめなファッションを好む多くの女性をも引きつけ拡大し、Global Islamic Economy Report 2018-19 によるとモデストファッションは日本国内の消費額の約10倍もの規模を誇る産業に成長した。

 モデストファッションの確立の背景には中東における女性の活躍と立場の向上がある。伝統的なイスラーム社会において自由を持たず家の中に縛られていた女性たちは、社会に出て仕事をし、リーダーとして社会を引っ張っていくようになった。このようにして存在感を増した彼女たちの声はファッション業界にも届き、モデストファッションという新たなファッションスタイルの確立に繋がったのだ。

 それまで皆同じような格好をすることを余儀なくされていたムスリム女性たちに少しずつ自由が増え、彼女たちは抑えられていた個性を取り戻し始めた。彼女たちはファッションを通じて存分に自己表現できるようになったのだ。

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 現在では、世界的なファッションショーでモデストファッションのモデルがランウェイを歩き、女性たちの憧れの的となっている。これまで表舞台で輝く機会の少なかった彼女たちの輝く可能性が広がったのだ。

現地の人の声

 現在のファッションについて実際の声を聞くため、アラブ首長国連邦の女子学生にモデストファッションについてお話を聞かせてもらった。以下、インタビュー形式で彼女の声を掲載する。

普段どのようなファッションをしていますか?

私は国内では普段、ムスリム女性が伝統的に身につけてきたアバヤと呼ばれる全身を黒く覆う衣装を着ます。アバヤの中は外から見えないので自由に何でも着られます。最近では前が開いているアバヤやカラフルなアバヤなど色々な種類が見られ、若者の人気を集めています。国外に旅行をする時はアバヤだと目立つので、長袖や長いスカート、長ズボン、胸の開きの少ないような普通の洋服を着ます。どちらの場合でもシェイラ(髪の毛を覆う布)は被っています。

本人提供の写真

イスラム教のおける肌を見せてはいけないという制約はファッションを楽しむ障壁になっていると感じますか?

いいえ、全く感じません。私たちの服装は「モデスト(控えめ)」であれば自由なのです。カラフルなアバヤを見れば宗教がファッションを楽しむ障壁になっていないことが分かるでしょう。私は宗教を規制と捉えたことはありません。宗教は正しい道へ導いてくれるガイドのようなもので、私たち自身が適切だと思うように従います。

ファッションを通じて自分らしさを表現することができると感じますか?

まず私にとってファッションとは洋服だけではありません。靴、カバン、化粧、アクセサリーなど全てを含めたコーディネートを指します。私はファッションを通じて自分を表現することができないと感じたことがありません。私たちの着るアバヤはどれも全く同じに作られているわけではなく、お店に行き自分の好みに合わせて自分だけのアバヤを作ってもらうことが多いです。カラフルなアバヤは人気ですが、あまり自分に合うと思わないし好みではないので黒いものを着ることが多いです。今の時代、アバヤはファッションアイテムであり、デザイン性を十分に考慮したアバヤが多く作られている為どんどん高価なものへと変化しています。

モデストファッションのどのようなところが好きですか?

自分のスタイルを十分に表現できること、自分の身体を評価されることなくファッションを楽しめるところがモデストファッションの上品さであり、いいところだと思います。

中東での女性の立場や権利は近年変化したと感じますか?

とても感じます。私は多様性豊かなことで知られるドバイで育ち、幅広く活躍する女性を幼い頃から力強い存在として認識してきました。政治的に不安定な一部の周辺国では女性の立場はまだ弱いですが、中東全体として少しずつ女性の存在感が大きくなっており、とても嬉しく感じます。

 ドバイに住むムスリムの彼女。アバヤを着用し控えめな服装をするというムスリムの伝統に従いつつ、自分を表現する手段の一つとして自分のスタイルを見つけ、ファッションを楽しんでいる。自由なく家に縛られていたかつてのムスリム女性たちと異なり、彼女は女性を力強いものと捉え、未来に希望を抱いている。彼女の話からモデストファッションと共に力強く生きる中東の若者の姿が見て取れる気がする。

モデストファッションの確立を担ったスタートアップModanisa

 モデストファッションの確立に大きな影響を与えたのがファッションスタートアップModanisaだ。Modanisaはトルコ発のオンラインショッピングサービスで、多くの女性に、アラビア半島の伝統衣装に加え露出の少ない服や体のラインの見えにくい服など、モデストファッションを提供している。ムスリム女性の服装の選択肢が限られていたという背景から、Modanisaは彼女たちの生活にあった服を届けたいという想いのもと2011年に設立された。現在では約140カ国、2000万人の顧客を相手に650以上ものブランドからなる製品を提供している。

 ModanisaはModest Fashion Weekというコンセプトの立ち上げにも携わった。Modest Fashion Weekとはモデストファッションの精神を世界的に広めるとともに業界内において持続的なビジネス関係の構築をサポートすることを目的に2016年にイスタンブールで始まり、ロンドン、ドバイ、ジャカルタ、アムステルダムと世界各地で開催されてきた。毎年Modest Fashion Weekには数々のイベントが開催され、メディアやデザイナー、ブランド、インフルエンサー、消費者が世界中から集まる。

Burcu Ergin / Shutterstock.com

またモデストファッションのパイオニアとして成長を続けるModanisaはいくつもの名だたる賞を受賞してきた。2016年にはロイター社により世界で最も人気のあるムスリムアパレルサイトに選出され、2017年にはIslamic Economy AwardにIslamic Arts分野で選出された。そして続く2018年には、International Business Excellence 賞を受賞した。

 Modanisaは社会的にも大きな影響力を持つ。Modanisaでは管理職に占める女性の割合がトルコ、そして西洋の基準をも超えており、従業員やサプライチェーンもほとんどが女性であるため、トルコにおける女性の活躍や経済的自立を支えている。さらに、インターネットが全国的に普及していないトルコにおいてオンラインサービスであるModanisaを普及させる為に、代金引換や送料無料サービスなど、それまでオンラインサービスへのアクセスが限られていた低所得層の利用を増やす工夫を導入する必要があった。結果的に、Modanisaは低所得層へのテクノロジーの普及とオンラインサービスの顧客層の幅を広げることに貢献したと言えるだろう。

モデストファッションのこれから

 イスラム世界におけるファッションは女性たちの立場の向上と共に変化してきた。モデストファッションの確立はムスリム女性に自己表現の手段を与え、力強く生きる彼女たちを支える。宗教の捉え方が人それぞれである中で、今後ムスリムファッションにおいては、UAEの女子学生が話してくれたように宗教を「ガイド」として自分らしさを追求することが主流となるだろう。さらに、Modanisaをはじめとする中東のアパレルブランドが牽引してきたモデストファッション業界に更に多くの欧米などの大手アパレルブランドが参入することも予想され、さらに市場規模が拡大する見込みだ。

参考資料
modanisa.com(2020年11月12日参照)
※タイトルの画像はmodanisa.comのホームページから切り取ったものです
HALAL Business Online 「モデストファッションとは?【ハラール経済から読み解く】」(2020年11月17日参照)
NewSphere 「最新のファッショントレンド『モデストファッション』とは」(2020年11月17日参照)
VOGUE 「モデストファッションって?急成長を遂げるその背景を探る。」(2020年11月18日参照)
進め!中東探検隊「イスラム教女性の服装を知ろう!ベールの種類、肌を隠す理由とは?」(2020年11月19日参照)
FASHIONSNAP.COM「勢いを増す『ムスリムファッション』驚くほど多様でモダンに」(2020年11月20日)
THOMSON REUTERS "State of the Global Islamic Economy 2018/19" (2020年11月23日参照)
MODEST FASHION WEEKS(2020年11月23日参照)
ライター紹介:ゆき
東京大学文科一類1年。3年間エジプトに住んでいた経験から中東地域に興味を持ち、今は特に中東の技術革新に関心がある。旅行と食べ物巡りが好き。中東料理を食べたい!

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