【寄稿記事】中東の可能性を追いかけて

こんな人に読んで欲しい

  • 中東という地域のイメージが掴めていないけど興味ある!という人
  • 中東の石油や紛争以外の面を知りたい人

留学中に出会った、ある人のことが忘れられない。

同じ留学生で、放課後にだらだらと雑談する仲だった。何かの折に生まれ育った街の話になった。ストリートビューで彼が見せてくれた港町には美しいモスクがあった。そのモスクによく行っていたのか、何気なく聞くと、彼はこう答えた。

"Yeah, I'm a Muslim"    

それから慌ててこう付け加える。

"But, but I'm not a terrorist"

彼は何故その台詞を付け加えなければならなかったのか。

彼がその台詞を付け加えなくて良くなるには、社会は、あるいは私は、どうすればいいのだろうか。

そんな問いが頭から離れなかった。

石油とテロリズム、だけじゃない。

石油でもテロリズムでもない中東を知りたくて、少しずつ自分で調べるようになった。右から左に書くアラビア語が美しく見えた。

中東で活躍する女性アーティスト、UAE発の宇宙開発計画、甘過ぎるけど美味し過ぎるお菓子。思いがけない中東を沢山見つけた。

「中東」と聞くと、どうしてもオイルマネー、テロリズム、シリア内戦、パレスチナ問題…こういった事柄が頭に浮かぶのではないだろうか。だからこそ、それ以外の中東を発見したい、願わくば発信してみたい。

こんな思いから、Spark Middle-Eastを立ち上げた。

「面白い中東」を、発信したい。

これまでSpark Middle-Eastは二つの講演会を開催した。コロナ禍で実際に現地に赴くことが出来ない今、連続講演会を通じ「面白い中東」「見たことのない中東」に触れてもらうことが目的だ。

第一回講演会*「現代アート×中東 女性アーティストの挑戦」ではキュレーターの現王園セヴィンさんを招き、中東地域の現代アートについて講演頂いた。イスラム圏で根強い男女格差、同時多発テロ後のアメリカで暮らすムスリムの苦悩。女性アーティストたちの扱うテーマは決して明るくはない。それでいて、彼女らの作品は力強く挑戦的で、ときにユーモアを持ち合わせていた。

Suspended Together (2011) Manal Al Dawayan

第二回講演会*「長期留学×中東 クウェート留学から未来に繋がること」ではクウェート政府奨学金を得た齋藤祐史さんをお招きし、一年間のクウェート留学が自らのキャリアに与えた影響を、体験談を交えてお話頂いた。

特に印象深かったのは

「クウェートで異文化に出会ったとき、それがイスラーム圏全体の文化なのか、
クウェート固有の文化なのか、区別する必要がある」

という言葉だ。齋藤さん自身が、留学中に出会った人から言われたという。その人は、他の中東諸国を訪問する際のことを考えてアドバイスをしたのだろう。それでも、その言葉に考えさせられてしまった。

立ち止まる、一歩。

「中東」あるいは「イスラム」といった言葉は様々なものを内包し、様々なものを連想させる。括りが非常に大きいために、異なる何かを一緒くたにしてしまったり逆に取りこぼしてしまったりする。

新しい習慣や視点に出会ったときに「イスラム圏ではこうなのか」「中東では普通なんだ」と一般化するのは凄く楽だ。「はい、異文化理解完了!」という気になって終了。

しかし、そこで一歩立ち止まる必要があるのではないか。その差異は、宗教的な信条に起因するかもしれない。そうではなくて、特定の国の歴史的背景かもしれない。もしかしたら、その人の過去の恋愛経験のようなめちゃめちゃパーソナルな何かである可能性もある。

それを掘り下げた方が、難しいけど絶対に面白い。

大きな言葉や概念にすぐに飛びつくのではなく、敢えて狭い視野と細かい視点をもつこと。

これが「面白い中東(便宜上、中東という言葉を使いますが…)」を発見するのに必要で、かつ、このプロジェクトの醍醐味なのではないかと講演会を聞きつつ改めて感じた。

石油なき中東の、未来。

「中東といえば石油」というイメージが広く浸透していることは冒頭でも述べた。ところが今、そのイメージが揺らいでいる。豊富なオイルマネーが支える「無税国家」として知られていたサウジアラビアやUAEは、石油価格の低迷を受け、2018年に5%の付加価値税(=消費税)を導入した。

*パンデミックによる石油価格のさらなる下落で、この付加価値税は15%に引き上げられた

石油価格の低迷の背景として一つ挙げられるのは、持続可能な開発への意識の高まりだ。2050年までに化石燃料の利用の50%~80%を削減することを目指すパリ協定に多くの国が合意しており、これを受けた燃費規制の導入や太陽光発電の低価格化が先進国や一部の途上国で見られている。

産油国が産業構造の変革を迫られているのは明らかだ。というか実は、既に変化が起き始めている。例えばサウジアラビアは、収入源の多様化を中心に据える戦略(サウジ・ビジョン2030)の実施から3年以内に、非石油収入を約78%増加させた。

このような状況でSpark Middle-Eastが持つ視点、それは

「中東×スタートアップ」

だ。産業の多角化を目指す産油国にとって、運輸から金融、教育やweb広告といった多様な分野にまたがるスタートアップは、一つの成長の原動力と言える。スタートアップ関連の活動の最初の一歩として、11月24日に中東最大級のスタートアップイベントStep Saudi 2020に参加した。現地の起業家に実際にインタビューしたり、サウジの駐米大使の講演会を聴いたりすることで初めて見えてきたことも多い。

中東地域のスタートアップや起業家という範囲に絞り、掘り下げる。そうすることで、過去の講演会とはまた違った「面白い中東」さらには「石油なき中東の可能性」を発見し発信していくことが、このプロジェクトの現在の目標だ。

*講演会の詳しい内容は Bizjapanのnote、東京外国語大学オンラインメディア”Wonderful Wander” に掲載されています。

写真提供:Manal Al Dowayan

 

【参考】
「中東情勢分析:駐日中東大使に聞く 第1回  ナーイフ・マルズーグ・アルファハーディ・サウジアラビア大使」中東調査会 2020年11月25日

「中東地域におけるスタートアップ動向調査」JETRO 2019年3月

“China looks at plans to ban petrol and diesel cars” BBC. 2017年9月10日

Manal Al Dowayan

岐部秀光「サウジとUAE、付加価値税導入」『日本経済新聞』2018年1月1日、朝刊

池田晋一「英国、ハイブリッド車を2035年に販売禁止…日本メーカーに影響必至」『読売新聞』2020年2月5日

 

ライター紹介:みずき
東京大学文科三類1年。アメリカ留学中に中東出身の移民達と出会ったことをきっかけに、中東・イスラームに興味を持つようになる。
今は湾岸諸国の産業構造の変化に注目中。気が向くとベースを弾く。

Related Post

One Reply to “【寄稿記事】中東の可能性を追いかけて”

  1. はじめまして、Spark Middle-Eastの記事を読んでコメントさせていただきました。
    現在VCでベンチャー投資の仕事をしている傍らで、中東は何度も旅をして文化や歴史に惹かれ、ペルシャ語を個人的に勉強しています。

    中東の経済や政治に関するニュースは日本でもよく見ますが、現代アートやスタートアップの記事は中々見られません。このような情報発信はまだまだ不足していると思う中で、素晴らしいお取り組みだと思いました。ぜひ今後の記事も楽しみにしております。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA